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Torus-Torus-Torus

回転する円環の中で。たとえ緩やかなメールシュトロームの底でも。

無題1

リビングのソファに横たわった女の手の爪の先が、黒く汚れていた。私はそれを拭き取ろうと思ったが、女はちょうど、私が手を手に伸ばした瞬間に目を覚ました。女はものすごい剣幕で私を睨んだ。すると女の左目が飛び出した。目玉を繋いでいる筋肉が伸び、そのまま重力に負けながら放物線を描き、絨毯に着地したのだ。私は、さぞ痛いだろうと思い、眼球を元に戻そうと試みることにした。私は直接眼球に手を触れるのは失礼に当たる、紳士のやることではない、そう思ったのでタンスから適当なハンカチを選ぶことにした。どの柄のハンカチがよいのか、3分程悩んだが、水玉模様なら許してくれるだろうと確信した。ソファの前に戻り、証拠物件を取り扱う警官さながらの手つきでハンカチを使い、指紋を付けずに拾い上げた。私は掌の上で目玉をじろじろと見回した。私の目と女の目があった。私の気分は一挙にひっくり返り、怒りが込み上げてきた。なぜ私が戻してやらねばならないのか。私は今こそ、この目玉を証拠に提訴するのだ。たい私はこの目に睨まれたのだから、それくらいのことはやっていいだろうと考え、提出するためにチャックの付いた小さなビニール袋にしまうことにした。だが、目玉を繋ぐ筋肉が邪魔だった。これは切らなければいけない。そのときこそきっと、私のための革命が起こるのだ!目玉の付け根の筋肉を切断した。すると私の右目からポタポタと血が零れているのだった。床に滴った血を見るために顔を下に向けると、私の右目はゆっくりと、音を立てて転がり落ちた。女が、「革命だ!」と叫んだ。