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Torus-Torus-Torus

回転する円環の中で。たとえ緩やかなメールシュトロームの底でも。

秋への転移

こういった形で書くということをここでは避けて通りたかったのだ。だがそんな偉業を成せるほど私は何も知らず、今から書くことなどは幼い子供がロウソクに向かって吹いた息のように、火を消すには余りにも頼りなく、燃える盛る赤色の手前で力尽きてしまうことを知っているのに。

自らの姓を選んだことがあるだろうか。選ぶべきでもいやそもそも選べるはずもない姓を選んでしまったことが私にはある。本当は選べるということは大したことではなく、選ばれたことを引き受けるような力が欲しかったのだ。存在にとってはそれこそが偉大な力なのだ。結局私の選んだ姓は非力な抵抗としての選択、後に後悔にすらならないような選択だった。あのとき本当に名が揺らいだのだ。唯一で単一で純粋であったはずの名が世界とともに壁を走る罅の中に吸い込まれていった。あの主語がただの述語でしかなくなったのだ。主語を失った頼りない動詞達が宛もなくさまよい始め、四方の壁に頭を打ち、終いには動詞はすべて状態となった。斯く在る。主語を失った転移は果たして転移だろうか。転移が残したその空間は笑っているだろうか。しかし最早そんなことに嘆いているのではない。そんなものは遅すぎた。斯く在ることの身体性。名が揺らぎ崩れ去ろうとも、穿たれた球形の器に残滓のように在るこの非力な存在を尚も私と呼ぶしかないということに。どうして誰かがこの存在を私ではないと弁護してくれることがあろうか。主。全くくだらないこの夏がまだ終わってくれそうもないのだ。笑えばいい。

赤く焼けた肌が「私は白い」と叫んでいる。