Dr.ストレンジラブ

 

喫茶店に入った時の話だ。

私は変わらず煙草に火をつけて、本を手に取りその周りをぐるぐると回っていた。

本の中に入り込むのは難しいのだ。

 

年配の老夫婦が部屋の中心にある円卓に腰を下ろして会話をしていた。

夫人はサングラスを掛けていた。

博士の異常な愛情のストレンジラブ博士のような人だった。

 

婦人はあまり覚えていない。

 

爺さんがいった。

「この前○○さんから貰った、カステラ、もう食べたか。」

婆さんが応えた。

「一昨日食べたわよ。美味しかったけれど、賞味期限が近かったから、ザラメが溶けちゃって寂しいわね。」

 

その後、爺さんが

「お前最近家で寝てばっかりいるだろ。何か趣味でも始めたらどうだ。」

といった。

 

婆さんは

「昔は本を読んでたわよ、音楽とかも聞いていたし。」

「でも、最近は何もやっていないわ。」

 

更に爺さんが何故かときくと

「だって、私が本を読んでいたら、『なんでそんなくだらん本を読んでいるんだ』、とか、音楽を聴いていた時だって、『そんなつまらん音楽を聴くな。うるさいぞ。』とか、何をやってても止めろっていうから、私、もう何にも興味を持たないことにしたのよ。だってその方がいいでしょ。どうせあなたに止められるんだもの。」

 

こんな会話が耳を通り脳を貫いたものだから、私は本の周りをぐるぐる回るしかなかったのだ。

 

キューブリックの捉える中心。

あそこにはいつも何も写っていないように見える。

虚空。

 

気づいたときにはもうザラメは溶けている。